知事意見全文



経済産業省資源エネルギー庁長官 様               平成13年4月23日

山口県知事 二井関成

中国電力株式会社上関原子力発電所1,2号計画について(回答)

 山口県では、原子力発電について、これまで一貫して、国のエネルギー政策に協力し、地元上関町の政策選択を尊重するという基本的考え方に立って、各種広報活動や、原子力シンポジウムの開健を実施する等、広く県民を対象に意識啓発に努めてきました。
 この間、原子力発電に対しては、燃料供給の安定性や運転時に二酸化炭素を排出しない等の優れた特性を有するという意見も多く出されているものの、一方で、安全性については、平成7年12月の高速増殖原型炉「もんじゆ」の事故や、一昨年9月のJCO燃料加工工場亡おける臨界事故の発生等により、今なお、不安と不信があります。
 山口県としても、上関原子力発電所計画について、これまで、推進、反対それぞれの立場からの要望、申入れ等を受け、また、県議会での論議や事業者の環境の保全に対する対応、権利関係者との交渉状況等の推移等を見守ってまいりました。さらに、昨年10月には、「県民の意見を聴く会」を開催するとともに、地元上関町や周辺2市5町から意見を求める等、さまざまな形で、県民の意見を聴取し、今日まで検討を重ねてきたところであります。
 特に、県民の間には安全性の確保を中心として、原子力に対する不安感、不信感は払拭されておらず、国及び事業者は、この解消に向けて今後責任ある対応が必要であると考えております。また、発電所の建設に不可欠な用地の取得交渉が成立しておらず、これについても、今後、事業者において円満な解決が必要であると考えております。
 一方、山口県としては、原子力発電が、わが国電力の3分の1以上を担う重要な電源であり、化石燃料に代わる有効な基幹電源として、エネルギーの安定的・効率的な確保を図るなどの観点から、安全確保を大前提に、その堆進の必要性は認め得るものと考えており、上関原子力発電所計画を電源開発基本計画に組み入れることについても理解できるところであります。このような状況の中、このたぴ、知事意見の照会がありましたが、国におかれては、下記のことを十分考慮、検討され、誠意と責任ある対応をとられるよう強く要請しておきます。
 従って、下記事項については、これを真筆に受けとめていただきたく、今後の対応状況等によっては、当該計画の推進等について、県が有する権限、事務、協力等を留保することもあり得ることを申し添えておきます。

              記

1.用地の確保等について

 原子力発電所建設に当たっては、地元住民の理解と協力が重要で あるが、当該計画については、発電所建設予定地内の用地が未取得であり、また、漁業補償契約や用地交換譲渡契約に関して係争中であるなど、事業者が対応すべきことが残されており、国においては、事業者に対して円満な解決を図るよう強力な指導を行うこと。
 県としては、発電所建設に不可欠な用地の取得がなされるまで、事業者である中国電力が、当該用地に係る立地に必要な県への許認可等の諸手続を進めることは到底容認できないと考えている。

2.安全確保等について

(1)一昨年9月のJCO臨界事故等にかんがみ、国において、安全、防災対策も強化されたが、県民の間には、原子力発電の安全性に対する不安は、依然として大きいものがあり、このことは、周辺自治体においても、反対請願の趣旨採択がなされたほか、立地について明確な意志表示ができないことにも表れている。また、先月末原子力安全委員会が公表した2000年版原子力安全白書において、「原子力は『絶対』に安全」とは誰にもいえないとしている。
 従って、国においては、こうした状況を十分認識の上、上関原子力発電所立地について、国の明確な責任で、原子力発電の安全性に対する県民への不安解消等に最大限の努力を行うこと。

(2)原子力発電の、推進に当たっては、国や事業者の明確な責任のもとに安全の確保を最優先に対処することが不可欠であり、このため、安全審査や運転規制体制等を充実強化すること。
 また、公開ヒアリングについては、広く県民の意見を聞くよう努めるとともに、そうした意見を適切に反映した厳正な安全審査を行うこと。
 さらに、安全審査内容に係る情報公開に積極的に取り組むとともに、審査結果について県民や地域住民に対し十分に説明すること。

(3)原子力発電所の耐震安全対策について、計画地点が「特定観測地域」にあり、先月末には「平成13年(2001年)芸予地震」が発生し、耐震性について懸念する意見が高まっていることを踏まえ、事業者に入念な活断層等の事前調査を行うよう指導を徹底するとともに、今後想定される地震に対応できる最新の科学的知見を反映した厳格な審査を行うこと。

(4)原子力発電所の事故防止のため、定期検査全体の信頼性の評価を行うとともに、検査技術の高度化のための研究及びその成果の取り入れを積極的に行うなど、定期検査の信頼性の向上を図ること。
 また、原子炉等規制法の改正により設けられた原子力保安検査官制度の活用等により、事業者において安全運転が徹底されるよう厳しく指導すること。

(5)放射能汚染等は、五感で直接感じられないなど、原子力特有のものがあり、県民からも多数の意見が寄せられており、放射性物質等を封じ込めるための万全の対策を行うことはもとより、併せて次の措置を講じること。

 ア 原子力発電所及び海域を含む周辺地域の放射線管理の徹底を期すとともに、その情報公開に当たっては、県民や地域住民の信頼が得られるような対策を講じるよう事業者を指導すること。

イ 原子力発電所周辺住民の安全確保と健康保持のため、低線量放射線の影響等についての研究を積極的に堆進すること。

ウ 原子力発電所における作業従事者の被ばく管理について、被ばく影響に関する最新の科学的知見を踏まえ、労働安全対策に万全を期すとともに、事業者に対して指導の徹底を図ること。

(6)原子力発電所周辺の上空を航空法にある飛行禁止区域として全ての航空機の飛行を全面的に禁止すること。

(7)使用済燃料や放射性廃棄物、原子炉の廃止措置について、県民の間に将来にわたり「核のゴミ」が蓄積されるなど、安全性、環境保全の面から不安とする意見が多くあることを踏まえ、その管理、処分等に関して適切な対策を講じること。
 特に、使用済燃料の貯蔵・管理について、発電所内での新たな貯蔵施設にたよらないで済むよう、また、発電所内での貯蔵管理が長期にわたらないよう、適切な対策を講じること。
 また、わが国原子力政策の基本となっている核燃料サイクルに関して、使用済燃料の再処理の後.に残る高レベル放射性廃棄物処分等については、昨年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立し、最終処分に向けた枠組みが整備されたところであるが、今後、処分地の決定など計画的な事業実施に努めること。
 さらに、原子炉廃止措置についても、万全の安全対策を講じるとともに、処理基準や関係法令等の整備を行うこと。

(8)軽水炉でのMOX燃料使用については、安全確保を前提に関係住民の十分な理解と同意を前提に慎重に進めること。

(9)原子力発電所の運転の長期化に係る対策については、積極的な情報公開を行い国民の理解を得るとともに、定期検査の充実を行うこと。
 さらに、安全規制に係る新たな許認可制度を創設する等、運転の長期化に係る対策全般について抜本的な見直しを行うこと。

(10)原子力発電所の故障、事故等に関する情報については、自治体の照会に対しては、速やかに連絡するとともに調査結果や対策について公表すること。
 また、自治体が事業者と縮結する安全協定等の遵守について、事業者に対する指導の徹底を図ること。

3.防災対策等について

(1)原子力災害対策特別措置法の実効性を高めるため、関係省庁が一体となって、県民に対して積極的に防災知識の普及を図るとともに、自治体や事業者への指導、支援の充実強化を図ること。
 また、自治体が講じる防災対策に関して、各種防災資機材の整備やオフサイトセンターの設置、原子力防災訓練の充実等、財政支援を含む積極的な支援を行うこと。

(2)原子力災害時の具体的な事故想定、影響を及ぼす範囲及び被害想定について検討を行い、避難経路、迂回路の確保・整備等を含む原子力防災体制の充実強化を図ること。
 その際、上関原子力発電所立地予定地及び周辺地域は、半島部と島しょ部が多いという地理的な特性を十分路まえること。

(3)原子力災害時の緊急医療活動に万全を期すため、医療機能、施設の整備を図るなど、緊急時医療体制の確立に努めること。
 また、原子力災害に係る住民等の健康管理について、災害時やその後の長期的な健康管理対策を含めた実施体制の拡充を図ること。

(4)原子力発電所立地による農漁業等への風評被害の発生を防ぐため、適宜適切な情報公開を行うとともに、事業者に対して指導の徹底を図ること。
 また、原子力発電所の事故等による風評被害により、地域産業、経済等に影響があらわれた場合は適切な対策を講じること。

4.環境保全について

(1)上関原子力発電所環境影響評価準備書について、環境影響評価法第20条第1項及び電気事業法貨46条の13の規定に基づき提出した環境の保全の見地からの知事意見並びに事業者が国の勧告に基づき提出した環境影響評価中間報告に係る本県の見解(平成13年(2001年)1月29日付け環境保全第2046号)を踏まえ、事業者に対し指導の徹底を図ること。
 特に、発電所建設計画地周辺の海域は、瀬戸内海国立公園に指定されており、豊かな自然の宝庫としての高い評価もあることから、当該計画地周辺の自然環境の保全及び景観等との調和にも十分配慮するよう指導すること。

(2)温排水の漁業等への影響について、広域的、長期的な調査をさらに充実強化するとともに、調査結果を踏まえた適切な対応が講じられるよう事業者への指導を徹底すること。
 また、温排水の有効利用をするための総合的な研究開発に積極的に取り組むこと。

5.地域振興について

(1)電源三法に基づく交付金について、原子力発電所誘致による地域振興を図ろうとする立地自治体の要望に十分配慮し、立地自治体の実状等を踏まえた、責に実効ある支援がなされるよう、交付要件の緩和を含め制度の拡充等を行うこと。
 また、周辺自治体についても、支援策の拡充等を行うこと。

(2)原子力発電所等立地地域の振興に関する特別措置法に係る振興計画について、立地及び周辺自治体の実状に応じた支援が可能となるよう十分配慮すること。

6.その他

(1)エネルギー政策については、電力自由化や電力需要の伸びの低下による需給構造の変化に伴う価格競争等で、原子力発電の経済性、将来性等について疑問視する意見があることや、電力供給県に立地する必要性等、県民からさまざまな意見が寄せられており、こうした意見や国民の幅広い意見を踏まえ検討するとともに、国民的合意を得た上で進めるよう努めること。

(2)省エネルギーの促進及び新エネルギーの開発導入を積極的に促進を図るため、関連技術開発や関連設備の導入促進に係る支援制度等の充実強化に積極的に努めること。

(添付書簸)

1上関町及び周辺2市5町長(光市、柳井市、大島町、大畠町、田布施町、平生町、大和町)の意見

2「県民の意見を聴く会」での意見議事録・意見概要(論点整理)

3 各団体からの賛否両論の申し入れ、要望等一覧

4 中国電力への通知(写)